はじめに
ゲーム産業の発展に伴い、大規模なカーレースのプロジェクトやシミュレータが登場し、高品質のエンジンサウンドの需要が増えました。今日のレーシングゲームは映像が写実的であり、車両の細部にこだわりが見られ、必然的にサウンドデザインにも同等の詳細が求められます。
ゲーム中のイベントや物理的条件に応じて、サウンドもリアルタイムに変化させる必要があり、録音済みのサンプルを再生するという単純なレベルでは明らかに追いつけません。
本物のエンジン音をレコーディングするとなると、コストがかなりかかります。多数の高級車にアクセスする必要があり、レンタル代だけでも大金です。さらにレコーディング作業自体にも特殊な機材や収録条件、専門的な知識などが求められ、小さなスタジオやグループで開発する小規模なプロジェクトにおいては、すべてを揃えることが難しいかもしれません。
幸い、技術の進歩はとどまることがなく、いまでは各種セットアップや予算に対応したエンジンモデルの実装アプローチがいくつかあります。
目次
概要
サンプルを使用してエンジンを作成する
サンプルアプローチ
ソース素材の見つけ方と使い方
コンテンツの準備:カット、処理、ループ形成
Wwiseとの統合
Pitchパラメータの調節と微調整
Wwiseエフェクトで磨き上げて個性を与える
サンプルエンジンの最終的なサウンド
グラニュラー合成技術を使用したエンジンモデルの作成
グラニュラー合成技術:REV 2の概要と使用目的
適切なコンテンツを選ぶ
DAWの処理:グラニュラー用にRAMPを準備する
エンジンモデルの作成とRAMPキャプチャー
REV 2でパラメータをチューニングする
Wwiseへの統合:パラメータやエフェクトの設定
グラニュラーエンジンの最終的なサウンド
まとめ:エンジンモデルの制作アプローチを選択する
長所・短所の比較
結論
概要
本記事の主な目的は、各種ゲームプロジェクトの多様なエンジンモデルを作成してきた経験を共有することです。結果を向上させ、同じような課題に直面したデベロッパたちを正しい方向に導くため、主要なアイデアやアプローチを紹介したいと思います。
以下のトピックを取り上げます:
- Wwiseでサンプルをベースとした、エンジンオーディオモデルの作成。
- CrankcaseのREV 2プラグインとWwiseを組み合わせた、グラニュラー合成技術。
ここで説明する方法はWwiseオーディオエンジンを使用したものですが、必要に応じてお好みのほかのセットアップにも応用してください。
サンプルを使用してエンジンを作成する
サンプルアプローチ
サンプルを使ったエンジンモデルの制作は、取り掛かりやすく人気があり、費用対効果の高いアプローチです。
このアプローチの最も単純な方法は、ループサウンドのピッチパラメータを、エンジンのRPMに合わせてリアルタイムで制御する使い方です。
この場合、収録したエンジン音から2つの異なるレイヤーを用意するのもまたよいソリューションです。エンジンがLoad-offの時のレイヤーと、エンジンがLoad-onの時のレイヤーです。この2種類のレイヤーの切り替えに使うのが、ゲームエンジンが車両へのインパクトに応じて出すパラメータです。
車両が登場してもエンジン音がさほど注目されないような、特に小規模なプロジェクトに向いているメソッドです。
長所:
- 低コスト
- ソース素材の処理が最小限
- 統合が簡単
一方で、このモデルの最大の短所はサウンドが必ずしも本物らしくない点です。ピッチ値が高くなるにつれ、まるで芝刈り機のようなエンジン音になりかねません。
このアプローチを発展させた実装方式では、ブレンドコンテナと、車両エンジンのさまざまなRPMレベルの静的なループレコーディングを含むソースファイルを使用します。
こちらはフェラーリのテスタロッサエンジンの例です:
原理は変わりません。ピッチのパラメータを制御しますが、同時にRPMパラメータがブレンドコンテナ内で動き回り、さまざまなエンジンスピードでループを再生します。
ソース素材の見つけ方と使い方
- 自分で収録する(最も費用と手間のかかる方法)
- エンジンサウンドを専門とするライブラリを使用する(金額的に高くなりがちですが、さまざまな視点やシナリオに基づく高品質の音源が揃うため、ある程度のオーディオ予算のあるプロジェクトなどに向いています。)
- サブスクリプション型クラウドサービスとして提供されるエンジン音のレコーディングを利用する(最も経済的な方法ですが、品揃えが限られ、実装を完成させるために必要なリソースが不足している可能性があるなど、欠点もあります。)
- 無償ライブラリやウェブサイト(運次第で小さなプロジェクトに合う素材が見つかるかもしれませんが、その音源の提供条件であるライセンス内容を、必ず確認してください。)
ライブラリを使った作業
車両の収録を含む大半のライブラリは、通常Steady RPM(一定RPM)用のフォルダがあり、ここにRPMレベルが静的な時のエンジンのレコーディングが入っています。これこそ私たちが求めているものです。理想的には静的な複数のループ(例 アイドリング、1000RPM、2000RPM、3000RPMなど)があり、私たちはこれらをブレンドコンテナでクロスフェードさせて1つのソースとしてまとめます。それでは、この処理について詳しく説明します。
コンテンツの準備:カット、処理、ループ形成
収録済みのコンテンツをRPMのレベル別に、いくつかのループに切り分けます。例えば、「4種のRPMループ+アイドリングのループ1個」の5ファイルに分けることができます。
サンプルを使うすばらしさは、信号の音色の特性に影響を与えずにソース素材を自由に加工できることです。一方、グラニュラー合成技術では、全く影響がないとは言えません。
信号の音色の特性は、DAWで処理する際に考慮すべき重要な要素です。エンジン音の音色がクリアであればあるほど、信号の「スナップショット」をアーティファクトやディストーションなしで、グラニュラープラグインでキャプチャーしやすくなります。詳しくは、REV 2プラグインを使用したエンジンモデリング方式で説明します。
加工に際してサチュレーションで特性を強調したり、EQで低周波をブーストしたり、好みに応じてさまざまなプラグインを活用することができます。あなたの創造力次第です。
ループの処理
決め手はバランスです。個別セグメントは最終的にすべて1つの長いファイルにブレンドされるため、各ループは周波数特性やスタイルが直前のループと一致する必要があります。
ヒント:ループを作成する際、はじめに加工や編集を完成させてから、ループ作業にすすむとよいでしょう。
Wwiseとの統合
エンジンのRPM値をゲームエンジンから受け取るパラメータを設定します。
ここでは最大値1・最小値0のRTPCを使います。
次に、用意したレンダリング済みファイルをWwiseのブレンドコンテナにアップロードします。
ヒント:ファイルの命名規則を統一しておくと便利です。例えばアイドリングのループは、CARNAME_0RPM_IDLEのような名前にすることで、車種名、RPM数、アイドリング状態が分かると同時に、降順にソートした時に自動的にコンテンツがRPMの昇順に表示されます。これでブレンド処理の作業時間を大幅に節約できます。
ブレンドのフェードインとフェードアウトの様子
上図の通り、ループをクロスフェードさせます。隙間ができないように注意してください。ファイル同士を重ね合わせ、グリッド状のつくりになるようにします。
ヒント:フェードインとフェードアウトの種類を変えながら、トランジション時のボリューム降下を最小限に抑えます。最良の組み合わせは、Sine (Constant Power Fade In)とLogarithmic (Base 1.41)でした。
クロスフェードのデフォルト曲線で希望する結果が得られない場合、デフォルト設定を手動で調整することもできます。
Curves Demonstration
Pitchパラメータの調節と微調整
ファイルをブレンドコンテナに統合し、このコンテナにRTPCを制御するRPMをリンクさせると、ファイル間でトランジションができるようになります。ところがスムーズで自然な遷移ではなく、ピッチが飛んで不自然なエンジン音となってしまうかもしれません。
フェード設定後はピッチがジャンプすることを阻止するため、ループ間のトランジションのピッチ調整を行うことが重要です。
そこでループごとにピッチを制御する別のRTPCを作成します。
通常は各サウンドの最初と最後の2箇所にポイントを設定します。最初のポイントではピッチを下げておき、2つ目のポイントでは上げます。最適な範囲は、一般的に-100から+200-300です。
次にクロスフェードのオーバーラップ部分に再生マーカを置き、ループが互いにブレンドされてエンジンの加速がシームレスに聞こえるまで、ポイントを追加して微調整します。
この処理をすべてのクロスフェード部分において繰り返し、サンプル間のトランジションがすべてスムーズで自然に聞こえるようにします。
最後に、エンジンの設定全体をチェックし、各セクションを聞いて不要なアーティファクトがないか、そしてすべてが正しく機能しているかを確認することをおすすめします。
Wwiseエフェクトで磨き上げて個性を与える
通常私はWwiseの組み込みエフェクトを活用して最終的な磨きをかけ、少し個性を与えるようにしています。こうすることで信号全体の周波数特性が滑らかになったり、エンジン音の攻撃性が増強されたりします。
この処理に便利ないくつかのツール:
- Wwise Guitar Distortion:信号に例えば個性や倍音などを加え、高RPMのエンジンの轟音を強化します。
- Wwise Parametric EQ:信号の周波数特性形成に利用します。
- Wwise Harmonizer(任意):音に幅と深みを加えることができ、ソース信号がモノラルの場合に特に有効です。
サンプルエンジンの最終的なサウンド
以上でエンジンモデルの準備が整いました。ここからはあなたの創造力次第です。Wwiseの組み込みエフェクトを活用し、さらなるレイヤーの追加、新たなパラメータの導入、エフェクトの自動化など、あなたの価値観に合ったサウンドをかたちづくる方法がたくさんあります。
私たちが提供するこの基礎の上に何を建てるかは、あなたが決めてください。
グラニュラー合成技術を使用したエンジンモデルの作成
グラニュラー合成技術:REV 2の概要と使用目的
近年、ドライビングシミュレータやレーシングシミュレータなど、ゲーム向けのサウンドデザインにおいてリアルなエンジンのオーディオモデル制作が特に注目されており、グラニュラー合成技術が適用されるケースが急増しています。
グラニュラー合成技術は、オーディオ信号を最小の断片(つまり粒子)に分けることにより、複雑で動的な音の質感をつくり出します。エンジン音のエフェクトがより深く展開されてリアルになり、没入感を重視するゲームエクスペリエンスでは特に重宝されます。この技術の効果的な適用例がCrankcaseのプラグインREV 2であり、これはWwiseと直接統合することができます。このツールは特徴的なエンジン音をモデル化するだけでなく、微調整を行うための幅広い可能性も提供し、デベロッパは独自の結果を実現することができます。
プラグイン構成の細かいところには踏み込みませんが、最高の成果をできる限り短時間で得るための最も効果的なアプローチやコツなどを紹介します。
適切なコンテンツを選ぶ
サンプル+ブレンドコンテナを使いエンジンモデルを作成した時、私たちはSteady RPM(静的なエンジンスピードで、加速なしのレコーディング)を使いました。
REV 2はRAMPと呼ばれる別のレコーディングフォーマットを使います。RAMPとは、車両がアイドリングから最高RPM値までスムーズに速度を上げ、その後にRPMをスムーズに下げる収録方式です。
この処理にギアボックスは関与していません。
グラニュラー合成技術で作業する際、最も難しいのはコンテンツの入手です。ライブラリに適切なRAMPを含むベンダーはさほど多くなく、扱っている場合でも、収録されているレコーディングをすべてこのプラグインが効果的にキャプチャーできるとは限りません。
ライブラリを購入する前に必ず説明書を読み、あなたが求めているフォーマットが含まれていることを確認してください。
さらにどのような録音が使用に適しており、どのような録音が問題を引き起こすのかを理解しておくことも重要です。音色の要素が主な判断基準です(前述の通り)。大半がノイズであるようなRAMPは、プラグインがうまく解析してキャプチャーできない可能性があり、残念なことに修正できません。
ところで、REV 2はRPMの加速(Accel)だけでなく、減速(Decel)もキャプチャーできることは注目に値します。REV 2で理想的なモデルを完成させるためには、Accel(加速)、Decel(減速)、Idle(アイドリング)の3つのソースファイルが必要です。ただし加速と静的アイドリングサイクルだけの、最小限のファイル数からモデルを制作することもできます(減速をシミュレーションするためには、再生時に加速音を逆再生し、ローパスフィルタを適用します)。
以下はスナップショットを作成するために適切なレコーディングと、適切でないレコーディングの例です。
適したRAMP
適さないRAMP
DAWの処理:グラニュラー用にRAMPを準備する
グラニュラープラグインにコンテンツを統合する前に、コンテンツの前処理が必要となることが多いです。経験的にRAMPソースの処理過程は、サンプルを使ったエンジンモデル作成の時と異なります。ここでの主な作業は、サウンドの音色の基盤を破壊しないことです。一般的にこのレコーディング修正の過程で注目してほしいのは、欠点の修復、ダイナミック面の調整、信号の周波数特性などであり、サウンドへの極端な介入はキャプチャー時の最終結果に影響を与えかねないため避けます。サチュレーションを使う場合は、慎重に行ってください。信号の高周波成分を豊かにするためにエキサイターを使う方がよいでしょう。
RAMPのサウンドがダイナミックであり、信号の周波数特性がエンジンRPMの増減に合わせて変化するため、パラメータの自動化は的確なソリューションと言えます。自動化されたEQバンドを使い、低RPMでは低周波成分を減らし、高RPMではブーストします。
自動化について、ポルシェ911エンジンの例を紹介します:
つまり、レンダリング用にAccel、Decel、Idleの3ファイルを準備します。
エンジンモデルの作成とRAMPキャプチャー
コンテンツの解析とキャプチャーを実践するREVツールは、エンジンRAMPを使った作業や、AccelやDecelに関する情報を含む専用ファイルPartial Documentを作成するために設計されたツールです。
File -> Open wav fileを使用して、事前に準備したコンテンツを読み込みます。
ここでは各パラメータの詳細設定について触れませんが、最終的な結果に最も影響するような重要点を説明します。
専用のマーカーを使い、REVがRAMPファイルを解析する範囲を設定してください。左側のマーカーはCtrl + LMB、右側のマーカーはAlt + LMBです。次に高調波をキャプチャーします。
私は制御と精度のレベルが高いマニュアル方式のキャプチャーを好みますが、ほとんどの場合は自動キャプチャーで充分です。
手動で高調波をキャプチャーする場合、高調波の線とセレクタの点線を正確に一致させることが重要です。
Min\Max Harmonicを使いトラッキングしながら、解析の対象範囲の縦方向を調整し、非常に低い高調波や、不明瞭な(ガタガタした)高い高調波を切り捨てます。これは低周波数における過度なランブル音や、高周波数におけるアーティファクトを回避するために役立ちます。
Window Sizeパラメータを選択します。RAMPファイルの長さに合わせ、さまざまな値を試すことをおすすめします。
簡単にまとめると:
Window Sizeはオーディオ処理のための、高速フーリエ変換(FFT)で実施する音響分析の仕方を決定します。
- Window Sizeは、音のフリクエンシーをどこまで正確にこのプログラムで分析するのかを定義するパラメータです。
- 大きい数値(例 32768以上)は、長い音や大きいサンプルレートを対象とした時に正確な結果を出してくれますが、急に音が変化した時に結果が「ぼやける」ことがあります。
- 小さい数値は、急なピッチ変化をよく追跡してくれますが、周波数分析の精度が低下します。
Start Cycle Trackingをクリックし、REVがAccelモデルを構築するのを待ちます。
作業画面上でスライダをドラッグするか、Send to Simulatorボタンでシミュレータを実行して、ビルドされたモデルにアーティファクトがないかを確認できます。
Crossfade Styleパラメータ使い、実験してみてください。
Crossfade Styleパラメータ
3Layer:粒子間の移行が滑らかになりますが、信号の細部や明瞭さが少し失われるかもしれません。
2Layer:細部まで表現されますが、信号のクロスフェードが起きる箇所がはっきりと聞こえるようになります。
設定が完了しましたら、このAccel Partial Documentを保存し、Decelファイルの分析にすすみます。
Decel分析の処理も全体的に似ています。ベストな結果が得られるまで、パラメータを使い実験してください。
Decelファイルが存在しない、または破損して正しく分析できないこともあります。DecelモジュールがなくてもREVがモデルを作成して自動的に調整できるほか、Reverse関数を利用して手作業でDecelを作成することもできます。Start Cycle Trackingボタンを選択せず、Tools -> Reverseを選び、Reverseファイルを別フォルダに保存します。その後、通常のDecelと同じように作成されたファイルを分析します。
ヒント:バリエーションを出すために、可能であればAccelのRAMPレコーディングを2種類用意します。一方はAccelとして、他方はREVERSEアルゴリズムで処理してからDecelとして利用します。こうして多様性を確保することにより、少し異なる音が得られます。
Partial Documentの準備ができたところで、それらを組み合わせてモデルを作成します。REVツールのModelタブでこの作業を行います。Accel rampウィンドウでAccelファイルを選択し、Decel rampウィンドウではDecelファイルを選択、またIdle Loopがある場合はそれも選択します。
Min Freq・Max Freqなどの数値が、近い値になっていることを確認してください。RAMPファイルが適切に分析されていることを示します。そうでないと仕上がったモデルから正しい音が出ない可能性があります。
複数のPartial Documentを組み合わせる
Simulateボタンをクリックし、完成したモデルの微調整をはじめます。
REV 2でパラメータをチューニングする
モデルの物理パラメータの微調整は、ゲームやゲームのプロトタイプで直接テストすることが一番です。REVツールのSimulatorウィンドウで、車の質量やトランスミッションの動作など、さまざまなパラメータを調整することができます。
あなたのニーズや希望に合わせて変更してください。各パラメータの制御内容については、ユーザマニュアルをご参照ください。
ここではエンジン音の特性に影響を与えるパラメータに注目します。
Model Controlsセクションでは、AccelからDecelへのブレンドを制御することができ、その逆方向も可能です。
Accelタブでは、Load Off Volパラメータを0.3から調整しはじめ、実験しながらすすめてみてください。
Decelタブでは、Load On Volを好みに合わせて設定してください。このパラメータを変更した時に、Accel音が変化する様子が分かります。
また、Editボタンをクリックしてクロスフェードのアルゴリズムを調整することもできますので、まだ済んでいない場合は試してください。
ヒント:シミュレータモードでの作業には、Xboxコントローラが便利です。ゲームプレイのシナリオをモデル化し、モデルのパラメータを快適に調整するための最適の方法です。
モデルの音に満足し、アーティファクトやボリューム変動などがないことを確認できたら、シミュレータウィンドウのSaveボタンをクリックしてモデルを保存します。このモデルを再び編集したい場合、REVツールのModelタブでもう1度モデルを簡単に読み込めます。
Wwiseへの統合:パラメータやエフェクトの設定
完成したエンジンモデルの加工は完全にクリエイティブな作業であり、細かいルールはありません。エンジンサウンドに個性を与え、必要に応じて問題を修正するために、幅広い組み込みエフェクトがWwiseに揃っています。
通常、私は以下の一連のエフェクトを出発点としています。これらのツールの役割は:
- Wwise Parametric EQ:周波数スペクトルの問題を解決するために使います。イコライザーはモデルを修正するために便利で、グラニュラーエンジン処理の過程で発生する、過剰な低周波成分、ランブル、アーティファクトなどを除去してくれます。EQ(何かを差し引く)とディストーション(何かを加える)の組み合わせは、必ずと言ってよいほど成功します。
- Wwise Guitar Distortion:信号の色付けに最適です。ディストーションは、どれほど退屈なモデルにもパワーと攻撃性を与えてくれます。ビフォー・アフターの例を少し見てみましょう。
- Wwise RoomVerb:状況に応じて、エンジンを空間内に配置するためのプラグインです。
- Wwise Harmonizer:低周波成分が足りないエンジンモデルに追加します。ハーモナイザーは幅や奥行きも追加してくれます。
ヒント:エンジン音がゲームエンジンのパラメータによって常に変化するため、RTPCを使ってエフェクトパラメータを自動化することは適切です。RPMのRTPCがこれによく使われます。これで信号の特定の部分における処理の量を制御できます。よくある例は、信号の異なる部分における低周波成分量の違いです。
グラニュラーエンジンの最終的なサウンド
エンジンモデルはこれで準備完了です。ここにバックファイア、コンプレッサー、サスペンション、自動車フォーリーなどのレイヤーを追加し、さらにインタラクティブでダイナミックなサウンドにしてゆきます。変数、自動エフェクト、ランダム化などを追加できます。ここからはあなたの創造力次第です。
早速完成した911モデルをシミュレータで運転し、同じような手法でつくったほかのエンジンモデルも聞いてみましょう。
まとめ:エンジンモデルの制作アプローチを選択する
この記事では、最近のエンジン音モデルの2つの作成方法を見ました。従来からあるサンプルベースのアプローチの方が、制作コスト、入手可能なテクノロジー、音の品質などのバランスが取れている一方、REVを活用したグラニュー合成技術を使った方が、自然でダイナミックなサウンドモデルを作成できます。どちらのアプローチにも特徴があり、プロジェクトの具体的な要件によって最適な選択が異なります。
長所・短所の比較
Wwiseを使ったサンプルベースのアプローチ
長所:
- 費用対効果:サンプルに基づきモデルを作成した方が、一般的に安価です。
- 統合が容易:WwiseがRTPCをネイティブでサポートしているため、リアルタイムパラメータ(RTP)の調整が容易です。
- 信頼性:ゲーム業界で充分にテストされ、広く使われている手法です。
短所:
- 時間がかかる:サンプルからモデルを作成するには時間がかかり、大量のエンジン音を作成する場合は特にそうです。
- 音質:最終的なモデルの音質は、グラニュラー合成技術よりも低品質となることが多いです。
- 具体的な録音条件:車の収録には特別な条件がありますが、多くのオーディオライブラリではこれが考慮されていません。
グラニュラー合成技術のアプローチ
長所:
- 柔軟性と創造性:パラメータを利用して実験し、ユニークかつ動的なサウンドモデルをつくることができ、より自然な音をつくれます。
- 革新的:REVを使うことで従来の方法では難しかった複雑な音の質感をつくり出せ、新たな可能性が広がります。
- 適応性:変化するゲームプレイの状況に合わせ、音を簡単に調整できます。
短所:
- セットアップが複雑:グラニュラー合成技術やREVのパラメータを深く理解する必要があり、開発時間が長くなる可能性があります。
- アーティファクトのリスク:使用方法を誤ると、最終的な音質を劣化させる不要なアーティファクトが発生する可能性があります。
結論
WwiseのサンプルベースアプローチとREVによるグラニュラー合成技術のアプローチは、どちらもエンジン音のモデリングに効果的なツールです。一般的につグラニュラー合成技術を使ったモデルの方が自然に聞こえ、クリエイティブな可能性が拡大しますが、サンプルベースのアプローチの方がコスト、制作時間、品質のバランスが取れます。どちらの方式を選択するかはプロジェクトの特性と入手可能なリソースによって変わり、場合によっては両方のアプローチを組み合わせることが最良の結果に繋がります。
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