コミックブック風ロードトリップ『Dustborn』のサウンドスケープ

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コミックブック風ロードトリップ『Dustborn』のサウンドスケープ

『Dustborn』はRed Thread Gamesが開発し、Quantic Dreamがパブリッシュしたアクションアドベンチャーゲームであり、私は2020年から2024年までの4年間、制作に携わる機会に恵まれました。

このゲームではならず者たちの集団が身分を隠すために寄せ集めのバンドを結成し、分断された架空のアメリカ合衆国を横断するという、危険をはらむロードトリップに出発するゲームです。多様なゲームプレイモードやメカニズムが盛り込まれており、戦闘、謎解き、プレイヤーエクスペリエンスに影響する選択制の会話、そしてもちろん音楽のミニゲームなどが入ったゲームです。

このブログでは『Dustborn』の開発で使用した主要オーディオシステムのいくつかに焦点をあて、オーディオビジョンの実現にWwiseを活用した方法を紹介したいと思います。

 

静寂の中に存在するエコー

『Dustborn』では主人公パックスがStillness(静寂)と呼ばれる隠れた空間に入ることができ、この能力がストーリーの重要ポイントの1つとなります。Stillnessという名前からも想像できる通り、この空間は現実世界と並存する、夢のような異次元です。パックスはStillnessに入った後もベールで包まれた現実世界を認識しており、Stillnessのつくり出すフィルター越しではあるものの、そこで何が起きているのかを見て聞くことができます。

こうしたエフェクトを実現するために、私たちはStillnessというステートグループを作成し、OutsideStillness(静寂の外側)とInsideStillness(静寂の内側)という2種類のステート値を設定しました。現実世界にいる時はOutsideStillnessステートが適用され、現実世界において発せられるすべての音が明瞭に聞こえると同時に、Stillness空間の音がすべてミュートされます。一方、Stillness空間ではInsideStillnessステートが起動され、状態が逆となりますが、現実世界の音が完全にミュートされるのではなく、フィルターがかかり異なる処理が適用されます。こうすることにより、Stillness空間の影響を受けているものの、パックスは現実世界の音を引き続き把握することができる感じがします。

パックスはStillnessの次元にいる間、エコー(こだま)を見つけて録音することができます。エコーとは以前に発生した大災害の残物であり、新旧の文明の人声が多数含まれています。(背景を説明すると長くなりそうなので、詳しくはゲームをプレイしてみてください!)

パックスがエコーを録音するしくみを見ると、はじめにプレイヤーがエコーを見つけ、次にプレイヤーがエコーを引っ張り画面上の円の中に入れ、録音が終わるまでとらえておく必要があります。ところがエコーは円の中に引き込まれることに抵抗し、円外にとどまろうとします。

この抵抗力でRTPCを駆動させ、エコーのピッチやボリュームを変化させます。まるでプレイヤーとエコーが綱引きをしているような印象を与え、抵抗が強ければ強いほどオーディオは激しくなります。

Stillnessとエコーのデモ動画

 

音楽のキーを追うことのできる「スマート」スティンガー

このゲームでは、戦闘セクションの特定イベントを音楽スティンガーで強調させたいと考えました。しかし音楽はさまざまな調号で作曲されていたため、スティンガー側がそれに随時対応し、再生中の音楽の調号に適応する必要がありました。これには多くの追加コンテンツの制作を要しましたが、結果的に音楽の自然な流れを達成することができ、時間と労力をかけた甲斐が充分にあったと思います。

具体的には、ミュージックセグメントにミュージックイベントキューを追加し、キーの移り変わりを追跡できるようにしました。これらのイベントにSet Stateアクションが含まれており、このアクションでMusic_Set_Keyステートグループが適切な調合に設定されます。

すべてのスティンガーを1つのミュージックセグメントに入れ、キーごとにRandom Stepトラックを用意し、トラックの音量をステートグループで制御できるようにしました。このシステムの優れているところは、スティンガー再生中にトラックのキーが変わった場合、スティンガーが正しいバージョンにシームレスにクロスフェードする点です。

適応型スティンガーの動画

Wwise-Dustborn-Music

Wwise-Dustborn-States-music

 

ミュージックゲーム

『Dustborn』ではパックスと仲間たちがバンドを装い、ロードトリップでアメリカを回るというストーリーであるため、音楽的なミニゲームが登場することも当然かもしれません。音楽に合わせてボタンを押しまくる『ギターヒーロー』風のリズムゲームとしてつくられており、プレイヤーは「正しい」バージョンを聞くために、曲に合わせてボタンを押す必要があります。プレイヤーがボタンを押し損なうと、代わりに同じ楽器の「間違った音」が再生されてしまいます。ボーカルパートも例外ではなく、ボーカルボタンをミスしてしまうと、パックスのパフォーマンスが台無しになります。
私たちは幸運にもロンドンのアビーロードスタジオにおいて、主演女優のDominique Tipperと共にボーカルパートを収録することができました。そこで各トラックのパーフェクトな収録を必要な本数だけ完成させた後、彼女にさらに数回テイクをお願いしたのですが、今度はできる限り下手に歌ってもらいました。なんと皮肉なことだろう、と思ったのを覚えています。私たちは世界で最も伝説的なレコーディングスタジオの1つにいながら、彼女にできる限り下手に歌ってもらったのです。

実装方法としては、Wwiseで複数のマルチトラックミュージックセグメントを組み合わせ、トラックを個々のバスに送り、間違った音程を演奏する時は「正しい」バージョンの楽器演奏をダッキングさせました。パックスのボーカルトラックの「上手バージョン」と「下手バージョン」はステートで対処し、常に適切なバージョンが聞こえるように手配しました。 

「下手」バージョンの歌声のデモ動画

 

共同作業

『Dustborn』開発中に実に刺激的なミュージシャンたちとコラボレーションする機会に恵まれました。Dominiqueとボーカルのレコーディングを行ったほか、元アッシュのギタリストCharlotte Hatherleyと協業することもできました。Charlotteはゲーム用に新曲を提供してくれ、この曲は姿を変えさまざまな場面で出現するほか、サウンドトラックのギターもすべて演奏してくれました。さらに、幸運にもプラハにてプラハ・フィルハーモニー管弦楽団の30人編成のストリングセクションをレコーディングすることができ、楽曲に真の生命が吹き込まれたのを実感しました。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。少しでも興味を持たれましたら、ぜひお気に入りのプラットフォーム用のバージョンを入手し、コミックブックのインスピレーションから築き上げられた『Dustborn』のロードトリップを体験してください。

さらに詳しく知りたい方は、『Dustborn』のサウンドに関するこちらの記事をご覧ください:
https://blog.quanticdream.com/how-simon-poole-shaped-the-sound-of-dustborn/

『Dustborn』サウンドトラックのリンク:
https://open.spotify.com/album/4WRZUr5yYwpyed5InymzQk?si=3o107d5aQJS7Do9ebYrsOQ
https://music.apple.com/no/album/dustborn-original-game-soundtrack/1763069973
https://tidal.com/browse/album/381478250

サイモン・プール

オーディオディレクター

Red Rover Interactive

サイモン・プール

オーディオディレクター

Red Rover Interactive

ノルウェーのオスロを拠点とするコンポーザー、サウンドデザイナー、オーディオディレクター。Ivor Novelloアワードを受賞。

20年以上のゲームオーディオ経歴を持ち、現在はRed Rover Interactiveのオーディオディレクターを務めています。これまでにBAFTA受賞の『My Child Lebensborn』のほか、『Dustborn』、『Dreamfall The Longest Journey』、『Age of Conan Hyborian Adventures』、『The Secret World』、『Lego Minifigures Online』、『The Park』、『Dreamfall Chapters』、そしてフィヨルド・ノワールと呼ばれるミステリー『Draugen』など、高い評価を得た数多くのビデオゲーム作品を手がけてきました。

www.simonpoole.net

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