Wwise GMEプラグイン ― ゲーム内ボイスチャットを次のレベルへ

ゲームオーディオ

GMEゲーム内ボイスチャットのバージョン7がリリースされ、スケーラブルなゲーム内ボイスサービスと、Wwiseが対応するコンソールプラットフォームのXbox One、Xbox Series X、PS4、PS5、Switchとの互換性が確保されました。GMEゲーム内ボイスチャットとWwiseがタッグを組み、あなたのゲームを次のレベルに押し上げます。

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マルチプレイヤーオンラインゲームの人気が高まる中、ボイスはゲーム中のプレイヤー体験を広げるための重要な役割を担い続けています。ゲームには人間関係を促進する場としての素質があり、リアルタイムの会話を実現する交流機能がゲームに備わることによりプレイヤーの楽しみは増え、プレイ時間が増加します。 

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ゲーム用ボイスチャットソリューション 3レベル

ゲーム用ボイスソリューション開発は次の3段階に分けることができます:

1. サードパーティが提供するボイスコミュニケーションソフトウェア

プレイヤーがゲームプレイ中に会話をする時に経由する、サードパーティのボイスチャットソフトウェアのことです(例えばDiscord、Skype、TeamSpeak、WeChatなど)。ゲームにボイス機能が備わっているかどうかにかかわらず、音声通信のためにサードパーティの提供するボイスソフトウェアを使用することにより、プレイヤーは簡単にすばやく友人とボイスチャンネルを確立することができます。

ところがサードパーティのVoIP(Voice over Internet Protocol)ソフトウェアを使用すると、ボイスチャットの体験を実際のゲーム体験と完全に統合することはできません。サードパーティのボイスチャットツールの設計をいかに工夫し最適化したとしても、ゲーマー同士で電話をしているような体験しかできません。

2. ゲーム内ボイスコミュニケーションSDK

ゲーム内ボイスチャットの次のソリューションは、VoIPサービスプロバイダーが提供するSDKをゲームデベロッパがゲームに統合する組み込みSDKです。チーム単位のボイスチャット、近接ボイスチャット、ボイスのブロックリストなど、ゲーム内ボイス関連の各種機能をゲームデベロッパが有効活用することができます。

プレイヤーのボイスチャット体験をさらに向上させるため、ボイスチェンジやボイスのスペーシャリゼーションなど、さまざまな処理機能を提供するボイスSDKもあります。これらの技術によりゲームをもっと楽しめるようになり、没入感も高まります。ただしボイスの空間化だけでは真の没入体験となりません。真の没入感を実現するためには、ボイス処理がゲームのあらゆる環境に反応する必要があります。これはスタンドアロンのボイスSDKでは実現不可能なレベルです。ゲーム内ボイスチャットを次のレベルに引き上げるためには、第3レベルのゲーム内ボイスソリューションに目を向ける必要があります。

3. 没入型ボイスチャットソリューション

より没入感のあるボイスチャットソリューションとは、プレイヤーのゲーム内のボイスが実際のゲームに合わせてリアルタイムでレンダリングされ、各プレイヤーのボイスがさまざまなDSPアルゴリズムによって処理されるものです。現実世界で会話をする人々の体験を、ボイスチャットでシミュレーションします。

GMEのWwise用プラグインは、没入型ボイスチャットソリューションです。GMEはゲーム内ボイスコミュニケーションを提供するサービスであり、プラグインでGMEとWwiseを繋ぎボイスデータのやり取りを行います。GMEのボイスストリームがWwiseとシームレスに統合されることにより、Wwiseの高度なオーディオ処理や制御の機能をプレイヤーのボイスにも適用することができます。ゲームデベロッパはボイスをほかのゲームサウンドと同じオーディオセッションにおいて、デザイン・ミックスすることができます。ゲーム用に没入型ボイスチャットをつくり出すことが可能です。それではWwise+GMEソリューションを詳しく見てゆきます。

 

Wwise+GMEソリューション

GMEはボイスコミュニケーションをエンドツーエンドで提供するシステムです。ゲームに没入感のあるボイスチャットソリューションを導入するために、GMEとWwiseの間でボイスデータをやり取りする手段が必要です。この目的を達成するために、4つのプラグインが用意されています。下図はGME・Wwise間のボイスストリームの流れを示したものです。

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  • GME Sourceプラグイン:ローカルプレイヤーのボイスを録音し、キャプチャした信号の前処理を行います。処理したボイスをWwiseに送信します。
  • GME Sendプラグイン:処理済みボイスストリームをWwiseから受信し、エンコード後にGMEサーバに送信します。
  • GME Receiveプラグイン:ボイスストリームをGMEサーバから受信し、デコード後にWwiseに送信します。受信するボイスストリームの数によって複数のGME Receiveプラグインのインスタンスが発生することがあります。 
  • GME Sessionプラグイン:エコーキャンセルのためにAudio Deviceにルーティングされるボイスを監視し、サーバ認証情報を設定します。

Wwise+GMEソリューションには次のような独特の利点があります:

  • Wwiseとのボイス統合:ボイスストリームをWwiseに送り込むため、ゲームデベロッパはボイスとゲームサウンドを同じオーディオセッションにおいてミックスし、Wwiseでボイスを直接組み込むことができます。ゲームコードによるボイスの送受信は、Wwise Eventをポストすることにより行われます。ゲーム内のボイスのしくみは、ほかのゲームサウンドの手順と同じです。
  • モバイルプラットフォームにおけるゲームボイスの問題点の解消: ボイスのスタンドアロンSDKソリューションを使用した場合、マイクをオンにした後にボリュームタイプが切り替わり(メディアボリュームから通話ボリュームへの切り替え)、これが原因で音質劣化が発生します。Wwise+GMEソリューションの独特な設計により、ボリュームタイプを切り替える必要がなく、ほかのプレイヤーとボイスチャットをする時もゲームオーディオの元々の空間的なエフェクトが維持されます。
  • ゲームボイスのための強力でクリエイティブなデザイン機能:Wwiseの高度なオーディオデザインや制御機能をボイスに適用することができ、デベロッパは実際のゲームシナリオに応じて、より没入感のある面白いボイスチャット体験をつくり出すことができます。

 

GMEプラグインをゲームで利用するためには

Wwiseを使いゲームにGMEボイスチャットを統合するためのデザイナーとプログラマーのそれぞれのタスクは次の通りです:

サウンドデザイナーの仕事(Wwise Authoring)

  • GME SessionプラグインをSystem Audio Deviceの最後のエフェクトとして追加します。認証キーを入力し、プラグイン設定においてその他のGMEパラメータを設定します。
  • GME Sourceプラグインを使いSound SFX (GME Send Sound)を作成し、このサウンドの最後のエフェクトとしてGME Sendプラグインを追加します。GME Send Soundはローカルボイスを送信する役割を担います。
  • GME ReceiveプラグインでSound SFX (GME Receive Sound)を作成します。GME Receive Soundはボイスを受信する役割を担います。
  • GME Send Sound、GME Receive SoundのためのPlayイベントやStopイベントを作成します。
  • GMEのサウンドやイベントをSoundBankに追加し、ゲームで読み込み、再生できるようにします。

次のスクリーンショットはGMEを統合した後のWwise Profilerレイアウトです。

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 オーディオプログラマーの仕事(ゲームコード)

  • Wwiseをゲームに統合します。
  • GMEサウンドを出すゲームオブジェクトを登録します。
  • PostEvent APIを呼び出し、GME Playイベントをトリガーし、ボイスコミュニケーションを開始します。
  • PostEvent APIを呼び出し、GME Stopイベントをトリガーし、ボイスコミュニケーションを停止します。
  • GME固有のAPIを呼び出し、GME特有の機能であるグループ化、ブロックリスト、近接ボイスチャット、ボイスメッセージ、ASRなどを実現します。

 

『Suspects: Mystery Mansion』に採用されたGME

ソーシャル推理ゲーム『Suspects: Mystery Mansion』はネイティブボイスチャットや定期的なコンテンツアップデートなどがあります。ゲームのオーディオ品質を向上させ、Wwise内部にある信号フロー構造、スペーシャリゼーション構造、エフェクトチェインを活用し、ボイスチャンネルで送信する内容を制御するため、開発チームは既存のボイスシステムAPIをGMEに置き換えました。Wwise用GMEプラグインを使い、ボイスチャットを実装した経験について、オーディオチームWildlifeが書いたブログをこちらで読むことができます。彼らがAudiokineticの「Wwise Up On Air」にライブ出演したエピソードは、こちらでご覧ください。

 

まとめ

ボイスチャットはオンラインマルチプレイヤーゲームの開発において重要な役割を担い、Wwise専用GMEの統合により、没入感の高いボイスチャットがゲームにおいて可能となります。ゲームで非常にリアルで没入感あふれる環境をつくり出そうとするサウンドデザイナーにとって、これは強力なツールであり、ゲーム内ボイスチャットを次のレベルに引き上げてくれます。

没入型ボイスチャットをあなたのゲームにも取り入れてみませんか? 

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ペン・ガオ

ペン・ガオ

Game Multimedia Engine(GME)のテクニカルリーダー。北京在住。かつてドルビー・ラボラトリーズにおいてプリプロセッシング、コーデック、チューニング、スペーシャルオーディオなどを担当し、数多くのオーディオ関連プロジェクトの開発を率いてきました。2018年にテンセントへ入社後、ゲーム内の没入型ボイスチャットソリューションの設計・開発に携わり、世界各国のゲームスタジオのタイトルにこの技術が採用されています。

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