はじめに
こんにちは。これから『グウェント』や『ローグメイジ』の世界についてお話しますが、その前にCD PROJEKT RED(以下CDPR)の会社概要と私たちの入社以来の経歴を紹介したいと思います。
マチェイ・タタリノヴィッチ:サウンドデザイナーです。CDPRにおける私の初仕事は『グウェント』のQAでした。何か月にも渡りQA業務に携わった後、『グウェント』のオーディオチームに加わるチャンスがきました。マチェイがほかの人たちと『ローグメイジ』に熱心に取り組んでいる間、私は『グウェント』に集中しながらも彼らから学び、彼らから頼まれたタスクを通してメインプロジェクトをサポートしました。この期間後、私はさらに深く『ローグメイジ』にかかわるようになり、このゲームのリリースを手伝いました。いまは『グウェント』と、そのすべての派生プロジェクトの全面的な責任者です。
マテウス・シマンスキ:リード・サウンドデザイナーです。『グウェント』がパブリックベータ版としてリリースされる前、私のCDPRにおける最初の仕事はオーディオQAでした。 それから時間の経過と共に、私は『グウェント』のオーディオチームのサウンドデザイナーとなりました。『ローグメイジ』の仕事がスタートした時に『グウェント』の新たな開発作業の進捗に目をつけておくよう任命され、サウンドデザインチームの代表としてプロジェクトのサウンドスケープやソリューションを具体的に考え、オーディオ関連のすべてのトピックに関して『ローグメイジ』開発チームのための窓口となりました。
ライブサービスのゲームに携わり、私たちが学んだことは?
はじめに『グウェント』プロジェクトのすすめ方や、時間の経過と共に私たちが得た知識について、簡単に説明します。
『グウェント』は選択とその結果で成立するカードゲームで、自分のスキルが1番の武器です。勢力を選び、デッキを構築し、複数のゲームモードにわたりほかのプレイヤーたちと対決します。収集できるカードが何百枚にもおよび、ユニットやスペルや特殊なスキルが連なる中、アイデア1つで新しい戦略が生まれます。ゲームボードは、プレイヤーごとに近接と遠隔の2列に分かれます。相手より高得点を取得すると、そのラウンドで勝ちます。先に2ラウンドを勝った方がバトルで勝ちます。最初の手元カードは10枚で、1ラウンドにつきカード1枚を使います。敵に勝つには力の強さか、頭を使った巧みな技が必要です。ラウンドごとに勝敗の決まる『グウェント』では、多彩な戦略のチャンスが広がります。
ゲームの進行システムはフェアで、競争力のあるカードコレクションを構築すること自体が純粋な喜びとなります。気持ちよく『グウェント』をプレイすることが可能で、前提条件などはありません。『グウェント』の美しい手描きの絵や魅惑的なビジュアルエフェクトにより、どのカードもバトルも戦場も活き活きとし楽しく遊べるだけでなく、観る喜びもあります。『グウェント ウィッチャーカードゲーム』はPC向けにGOG.COMおよびSteamにおいて、またmacOS搭載のApple M1 Mac、Android、iOSにおいて無料配信中です。
『グウェント』担当チームは比較的少人数のチームとしてスタートしましたが、次第に人数が増え、関係者は複数の分野にまたがる100人ほどになりました。同時に私たちは仕事の計画の仕方や実行方法を実験していました。ご想像の通り、時折プロジェクト全体にかかわる変更が発生しました。しかし変更されなかったのは、ゴール地点です。クールで競争心をくすぐるカードゲームを開発し、さらにそれなりの量の新規リリースコンテンツに対応することが、私たちの目標でした。オーディオチームは常にこれを念頭に、できる限り時間を節約して技術的な作業に圧倒されないよう、処理方法や作業手順を整えてゆきました。
このゲームでは拡張パックが時折リリースされ、複数の新カードやコイン、カードバック、ゲームプレイボードなどのプレイヤー向け小物や、新しいリーダーの3Dモデルなどが含まれます。新しいゲームプレイ機能を投入することもあり、変更点の多くにサウンドエフェクトを提供する必要がありました。
私たちはこれを事前に分かっていたため、パイプラインをサポートしてできる限り効率的にするために、いくつかのソリューションを考案しました。例えば:
- アセットのレベル標準化 LUFSの統合
レベル基準が不明確であるアセットを新しく追加してゆくと、将来的に私たちにとって大きな負担となることに、ある時点で気がつきました。ミックスパスの必要回数も大幅に増えてしまいます。そこで初期テクニカル・サウンドデザイナーのAnthony Breslinがすばらしい対策を実施してくれ、ゲーム全体のオーディオを具体的なカテゴリに分け、それぞれに専用のLUFS統合レベル標準を設定しました。アセット作成時に目標とすべきラウドネスレベルが分かるため、アセットのマスタリングがしやすくなっただけでなく、クリエイティブな判断を行う時の参考となりました。これによりミキシングの確認作業が不要になったと思いますか?もちろんそんなことはありません。引き続きミキシングパスを行いましたが、全体的にはゲームが勝手にミキシングされ、Wwiseのボリュームスライダで行った変更は解像度+/-12dBではなく、+/- 3dBでした。このシステムは音楽やボイスオーバーにも統合されており、これらもラウンドネスの観点で標準化されています。その結果『グウェント』や『ローグメイジ』が格段とミキシングしやすくなっただけではなく、対応プラットフォームすべてにおいて目標とする質が達成しやすくなりました。 - Soundbankの整理と、.PCKファイルの利用
プログラマーのTomasz Dietrichが主に『グウェント』のVFXやオーディオのテクニカル面を担当し、WwiseとUnity Projectの統合も彼が行いました。ゲームの特徴や美的表現に基づき、できる限り高品質のオーディオを提供しつつ、ストレージやメモリの使用制限に配慮する必要があり、難しい状況でした。そこでプロジェクトでSoundBankマネジメントの上に、.PCKファイルの使用も取り入れることに決めました。ゲームボードや音楽のアセットパッケージにアセットのSoundBankが含まれるほか、アセットに関係するすべてのストリーミングファイルも入っています。カード、装飾品、ゲームプレイエフェクトなどのパッケージには、ほぼ例外なく.bnkファイルが含まれます。この構造はArt Teamが使用するUnity Engineのアセットバンドルロジックに対応しており、ストレージ使用の改善に繋がりました。またエンジン内におけるアートアセットやゲームプレイロジックの処理方法のため、オーディオパッケージ用の割り当ての多くが自動的に行われます。これにより私たちの作業が軽減され、ゲームのメモリ管理が効率化されました。.PCKを使用することにより、すべての対応プラットフォーム、特にAndroidとiOSにおいて、非常に高品質なゲームサウンドを提供することが可能となりました。 - 特定の拡張用にオーディオの「柱」を設定
このようなシナリオを想像してください:新しい拡張版が計画されています。これから取り組むカードタイプが分かっており、拡張版のストーリー、登場するキャラクター、計画中の拡張の芸術的なムードなどもすでに聞いています。そこにオーディオを取り込んではどうだろう?私たちは「オーディオの柱」という文書を作成することにし、前述の情報をまとめたほか、アセットを作成しながらどのようなサウンドエフェクトやサウンドの雰囲気を達成したいのか、お互いに話し合うたたき台とし、自分たちがどのような方向性ですすめたいのかを考える手がかりとしました。このようにして作成者が異なるさまざまなアセットの間にある種の一体感が生まれ、これまで別の内容に携わっていた人がその仕事に簡単に移り、手伝うことができるようになりました。アセットの大きいグループ内の一貫性も確保することができます(つまりある勢力のカード間に特定の類似性が出ます)。 - プロジェクトのカードやオーナメントの階層を作成するカスタムツール
拡張のたびにゲームが成長し、それに合わせWwiseプロジェクトに新規コンテンツだけでなく新しいソリューションも投入されます。ある時点からすべてのカードを手作業でセットアップするには時間がかかりすぎると気づき、解決策が必要となりました。同じくチームメンバーである別の優秀なテクニカルサウンドデザイナーのPablo BazがWwise Authoring APIを使い、カードの構成だけでなく、拡張全体の構成を数分でつくるツールを開発しました。作業日数が文字通り、数日単位で短縮されました。後にマチェイがこのツールをさらに拡張し、同じくRTPC対応が必要なコインやカードバックもセットアップできるようにしました。ゲームボードやミュージックの装飾など、このセットアップで処理しないアセットもありますが、これらは構造がさらに複雑でより細かい対応が必要です。これらのためには新しいアセットをつくる時に複製して使う、空の構成パターンを用意しました。
大がかりなプロセスとなりましたが、アセット制作の罠にはまらないよう、そして改善できる点を振り返らないよう、自分たちにゆとりを与えました。さらに私たちは『奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ』の開発と、『グウェント』のベータ段階からリリース段階までのリファクタリングを同時に行うことで、すばらしい教訓を得ることができました。
グウェント・クローズドベータ |
グウェント・リリースバージョン |
このプロセスで私たちが気づいたことは、適宜気持ちをリセットし現実的に考え、改善のチャンスを逃さず過去を恐れないということの重要性です。紆余曲折があったもののプロとして成長することができ、今後の大きなプロジェクトにおいて応用して広げることのできる、大変優れた作業手順に取り組むことができました。
Wwiseプロジェクトの詳細
Wwiseプロジェクトの中身は(『グウェント』、『ローグメイジ』共に)、以下の9セクションに分かれています(Default Work Unitはプロジェクト内にありますが、空です):
1. ボード 各ボードのActor-Mixerがあり、ボードのサウンドは以下2つのレイヤーに格納されています:
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- blanket 試合を通してループするベースレイヤーで、試合のフェーズによって強度が変わります。
- reactable 主にワンショットサウンドで構成されたレイヤーで、プレイヤーがボード上の特定要素や部分をクリックした時にトリガーされます。
各ボードに開始と終了の2つの基本イベントがあります。さらに各reactable用のイベントがあり、そのreactableが起動した時にトリガーされます。
ボードごとにSoundBankとパッケージがあり、いくつかのRTPC値によってリアルタイムに調整されますが、中でも最も重要なのがgame_intensityです。
2. カード カードはプロジェクトのメインです。ここにすべてのカードアセットが保存され、拡張パック別に分かれています。カードごとにWork UnitとActor-Mixerがあり、中にカードの標準アセット(『グウェント』の場合はプレミアムアセット)用のコンテナがあります。カードのイベント構成やSoundbankは、どれも非常によく似ています。どのカードも専用のイベントとSoundBank(『ローグメイジ』では1つ、『グウェント』では2つ)があります。
3. gameplay_vfx ゲームプレイフェーズのビジュアルエフェクトに対応するサウンドエフェクトがここに含まれます。すべてゲームプレイ機能をオーディオビジュアル的に表現するものです。
これらのSFXはエンジンのVFXシステムによって自動的にトリガーされ、オーディオチームが提供するイベント名が使われます。各SFXに対応するVFXがあり、多くは以下3つの要素に分かれています:
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- direct ゲームアセットに対して直接トリガーするサウンド。
- projectile projectile(発射物)がVFXをトリガーするアセットから、ターゲットアセットにいたるまでを追うサウンド。
- status ターゲットアセットに対してトリガーするサウンド。
gameplay_vfxアセットはさらに、エフェクトの対象によって特定のバージョンに分かれています。エフェクト対象とはカード、列、ボード横、またはボードです。
SFXを構成するすべての要素が、SFXに対応する別のSoundBankに格納されています。
4. リーダー カードと同じく、リーダーも拡張パックに分割されます。完全にアニメーション化された3Dモデルです。どのリーダーにも固有のうなり声があり、フォーリーがある場合もあります。すべてのリーダーに共通するフォーリー音、足音、武器などのサウンドは、別の共有Work Unitに格納されます。リーダーに固有の小物も一部ありますが、リーダーのサウンドをトリガーするエンジンシステムは全リーダー共通であるため、リーダーの小物も共有Work Unitに格納されます。リーダーシステムは共通アセットのための共有イベントやスイッチと、特定リーダーの固有アセットに対応する個別イベントに基づいています。
5. 装飾品 カードバックとコインは単なるゲームの装飾品であり、リーダーと似ています。共通Work Unitがカードバック用に1つ、コイン用に1つあり、そこに格納されます。どちらも1つのカテゴリー内のすべてのアセットに対し、それぞれのシングルイベントとシングルバンクがあります。ゲームエンジンで設定されたアイテムIDから継承されるスイッチ値に基づき、ゲームで適切なサウンドが選択されます。
6. カットシーン 厳密にはカットシーンは1つだけで、チュートリアルで表示されるゲームプレイフローだけです。しかし特定の音楽やボイスオーバーは入っていないため、非常にシンプルな構造です。
7. global_vo ゲームのボイスオーバーのミキシングを担うアセットが含まれる部分です。ボイス構造全体をノーマル、重要、ショップに分け、適宜ミキシングします。台詞自体を扱うのはUnity Engineであり、Wwiseはそれを外部ソースとしてミックスに送信します。
8. GUI ゲームのUIに対応するアセットは、すべてここに保存されます。ショップ、デッキビルダー、ゲームプレイなど、ゲームの各フェーズで分かれています。複数のフェーズに使用するサウンドを保存するためのグローバルWork Unitもあります。
さらにWwiseには『ローグメイジ』専用に、以下の部分があります:
1. カットシーン この部分は『グウェント』と似ていますが、カットシーンが多いため、カットシーンの要素も多くなります。どのカットシーンにも音楽、SFX、ボイスオーバーが含まれます。各カットシーンにそのカットシーン用のスタートとストップのイベントがあり、開始・停止されます。カットシーンに対応するすべてのアセットが、そのカットシーン専用のSoundBankに入っています。
2. 研究室 全体構造のこの部分に、ゲームの中心となる研究室関連のサウンドがすべて入っています。UIサウンドの入ったフォルダと、研究室のアンビエンスサウンドの入ったActor-Mixerに分かれています。研究室のインタラクティブ要素ごとに独自のUIサウンドがあり、これらを通して研究室のさまざまな部分が差別化されます。地図や魔道書など、UIに表示されるすべての要素にカスタムサウンドが割り当てられています。アンビエンス部分には研究室のダイジェティックレイヤーが多く含まれ、全体のベースにエミッターやUI要素が加わり、音のアクセントとなります。前者で研究室画面がより面白く魅惑的なサウンドとなり、研究室を探検しようとプレイヤーに思い、長い時間過ごしても退屈しません。後者で研究室の特定要素がより際立ち、行程の途中で、研究室の新たな部分がアンロックされると満足感があります。もちろんこれらはすべて、情報を提供するレイヤーの上にあります。
3. 地図 地図はゲームの重要な部分の1つであり、Wwiseの構造がかなり複雑です。以下の通り、地図の各パーツに対応するActor-Mixerで分けられています:
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- バトルのトランジション バトルの出入りの際のトランジションに対応するサウンドが、すべてここに入っています。
- カードアクション 力の場を訪れたプレイヤーが、自分のカードに適用するアクションに対応するサウンドです。
- イベント すべての地図イベントがここに保存されます。試合中にプレイヤーはさまざまな種類のイベントに遭遇し、プレイヤー自身の判断によって利益あるいは不利益に繋がります。
- ノード 地図UIの最上位レイヤーです。プレイヤーが地図にあるノードを強調表示した時や、ノードに入った時にトリガーされるすべての音が入っています。
- ポップパネル プレイヤーが地図上にいる時にポップアップ表示されるパネルと共に、ここに保存されているサウンドがトリガーされます。
- 報酬 地図で見つけることのできる数々の報酬に対応するサウンドが入っています。宝箱サウンドもここに保存されます。
どのサウンドも対応するイベントが1つのフォルダに保存されています。地図のイベントだけは、ほかより非常に複雑なUIフローがあるため例外です。地図イベントに対応するイベントは別のフォルダに入れられ、地図イベントごとに1つのWork Unitに分かれています。
『ローグメイジ』と『グウェント』の違いと、その差を埋めるためのアプローチ
ゲームプレイ的に『ローグメイジ』と『グウェント』はそれほど違いません。ある意味ではゲームプレイのメカニズムが『グウェント』と同じです。私たちはさらに、『グウェント』の以前のスピンオフ作品のひとつの『奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ』に戻り、ストーリー性のある出来事に合わせてサウンドスケープをつくり出すという、ストーリー中心の要素を取り入れようと思いました。
ゲームプレイからはじめたので、ゲームプレイの話を続けます。『グウェント』のゲームプレイの流れと何が違うのでしょうか。
『グウェント』でプレイするのは最大3ラウンドでしたが、『ローグメイジ』のバトルは1ラウンド限りで、1度負けると敗北です。このたった1つの変更点だけで、大きな影響がありました。ボードのアンビエンスや音楽は、何回目のラウンドをプレイ中なのかによって強度が変わりました。いくつもの戦いに挑むうちに、常に最大音量でプレイしていると飽きるのではと自問しなくてはいけませんでした。
次の変更点はカードの流れでした。『グウェント』では通常、ラウンドを開始してデッキからカードを2枚引き、オプションとしてデッキからカードを引き直し、手札2枚と交換することができます。『ローグメイジ』ではターンごとに1枚のカードを引き、合計6ターンあります。つまりカードを引く時の目立つサウンドが、時々聞こえていたのが頻繁に聞こえるようになりました。
グウェント |
ローグメイジ |
パターンが見えてきましたか?よかったです。簡単に言うと、ミックスのダイナミックスに多くの変更点がありました。例えば時々聞こえていたゲームプレイのUIサウンドスケープが、頻繁に聞かれるるようになったのです。私たちは『グウェント』のデザインや芸術的な決定との統一感を維持しつつ、別タイトルであることを音で表現することに苦労しました。
最も変わったのは、UIです
『ローグメイジ』では、UIのビジュアルを完全につくり直しました。ビジュアルを変更すると、音も変える必要がでてきます。重く木製ベースのサウンドエフェクトから、映画風でマジック風のアプローチに切り替えました(主人公はメイジ(魔術師)であり、私たちは彼が最初のウィッチャーをつくり出す旅に付き添うからです)。
UI全体の流れも大きく変わりました。新たなハブやメニューが追加され、ベースとなった『グウェント』のUIサウンドの一部が不要となりました。ここで私たちはWwiseのコンテンツの多くを切り離し、UIをこのプロジェクトでどのように扱うのかを調整する必要があることに気づきました。
グウェント
ローグメイジ
全く新しい3つの機能
前述の変更とは別途、『ローグメイジ』では3つの新機能が追加されました。実際には新機能が2つと、『奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ』のナラティブソリューションに基づく機能が1つです。
地図と研究室
これは大がかりで計画期間が長く、何度も繰り返し作業をしました。当初の私たちの計画は野心的で、画面上の昼夜サイクルの変化を反映させた特殊なバイオームや音を地図上に設定し、没入感のある場所にしようと思いました。しかし最終的には自分たちの作業範囲を、自ら拡大するという罠に陥りかねないとの結論に至りました。数歩下がって一番優先すべきことを決断する必要がありました(何しろオーディオに関しては、1つのチームが『グウェント』の新規更新と『ローグメイジ』の両方に取り組んでいることを忘れないでください)。
そこで地図のサウンドエフェクトの範囲を最小限にとどめました。これは苦渋の決断でしたが、このエリアに極めて洗練された雰囲気を提供しなかったとしても、ゲームの感触やダイナミック性は損なわれないだろうと全員が納得しました。多少のメモリやCPU使用の節約にも繋がり、これはタイトルがモバイルデバイスで滑らかに動くために重要です。プレイヤーは地図にそれほど多くの時間を費やさないだろうという理由もありました。
一方、研究室は全く状況が異なりました。ここはプレイヤーにとって要の場、メインハブです。可能な限り洗練させてプレイヤーに没入感を与え、実際にそこにいるかのような気持ちになることが重要と考えました。
私たちはボードのアンビエンス用サウンドエフェクトを制作した経験を活かし、研究所を活き活きとさせるアンビエンスループとエミッターをセットでつくりました。次にアンビエンスをUIで接合し、プレイヤーがハブのサブメニュー上にとどまった時の反応サウンドを、一貫した方向性に基づいて追加してゆきました。
ナラティブイベントと静的カットシーン
この機能はかなり昔に設計したもので、『奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ』の仕事をしていた頃のものです。UnityのFlowchart機能を利用して、マップ上に出現するナラティブイベントを作成することは分かっていました。そのしくみを説明します。イベントにいったん入ると状況の描写があり、ストーリーの記述が表示されます。仕上げに私たちが追加したのは、表示場面にプレイヤーの決断に合ったサウンドエフェクトによるオーディオ描写の追加であり、ちょっとしたラジオドラマになっています。
ゲーム中のイベント |
Wwise構造 |
静的なカットシーンも同じように扱い、より映画的なアプローチと英語のナレーションを採用しています。シネマティックな部分のナレーションの読み上げは、ゲームプレイ中のカードのセリフをトリガーする方法と少し異なります。後者は『グウェント』のカードと同じシステムを使っていますが、これはローカライゼーションツールに基づいています。『ローグメイジ』は英語だけの音声を用いることが決定していましたが、システム自体がすでにあり、新しいものを取り入れる必要はありませんでした。しかしカットシーンはまた別でした。
『奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ』のシステムは複雑すぎて、『グウェント』はシステム自体がありませんでした。『ローグメイジ』のカットシーンの音楽、SFX、ボイスオーバーなどをトリガーする最適な方法を検討しました。さまざまなアプローチを試しましたが、結局のところWwiseの階層にすべてのレイヤーをSFXとして入れることが、単純でベストな方法であると判明しました。このアプローチはセットアップが簡単である上、カットシーンの流れを完全にコントロールすることができます。対応言語が1つしかないことを考えた時、これ以上に洗練されたものをつくる必要はありませんでした。一部のカットシーンでエンジン側の扱い方が少し異なるため、それらのボイスオーバーはWwiseでなく、Unity経由にしました。
断片的なカットシーン |
カットシーン2つのWwise構造 |
Unityタイムラインを、UIに使う
ゲームの最後の仕上げの1つとなりましたが、ワークフローが劇的に改善されました。ハブとメニューを切り替える時のシネマティックな遷移が必要で、特に戦闘に入る時に重要でした。ベーシックな『グウェント』ではVS(と内部で呼んでいた)画面にPvP的な雰囲気があり、プレイヤー同士がお互いに簡単な自己紹介をし、誰と戦うのかをうかがえる設計です。『ローグメイジ』では目的が異なるため、視覚的にも音響的にも再設計しました。
ベースとなる『グウェント』でアニメーションからサウンドをトリガーする時はそれほど高度な技術を使っていないため、私たちの観点ではこれは大きな進歩でした。
まとめ
2人でこの記事を執筆しましたが、このタイトルでの2人の経験がかなり異なるため、「まとめ」は2つに分けて書くことにしました。
マテウシュ:
Audiokineticからの依頼は『ローグメイジ』という1つのタイトルについてでした。私たちは代わりに2つのゲームを深く掘り下げてお伝えすることにしました。その理由は単純で、『グウェント』なしでは『ローグメイジ』が存在しなかったからです。ただもう1つ、少し複雑で確固とした理由があります。AAAゲーム開発会社で比較的小さなタイトルを手がけることは楽ではありません。精一杯努力したい気持ち、プロとして成長したい気持ち、そして作品の質にこだわりたい気持ちがあります。私はよい方法を積極的に業界全体で共有すべきだと強く感じます。多くの場合、業界の人間は単純にビデオゲームが大好きで、最高のビデオゲームをつくりたいと思っているだけのマニアやオタクの集まりです。今回のように掘り下げて解説した小さな記事が、何かのインスピレーションとなることを願っています。
マチェイ:
私は『グウェント』、続いて『ローグメイジ』に携わり、多くのことを学びました。何よりもスケーラビリティが重要だということです。数年にわたり数々の新機能や技術を確立してゆき、私たちの生活の質は格段に向上し、より迅速にゲームのサウンドスケープを拡張できるようになりました。 さらに実装方法を探るために何時間も費やす代わりに、デザインに集中する機会が生まれました。もちろん『ローグメイジ』では、『グウェント』で問題とならなかった新たな課題が発生しました。しかし私たちは『グウェント』の強固な基盤を持っていたため、新しいゲームの独特なサウンドスケープを構築することができました。
2つ作品の制作に携わったすべての熱心なオーディオ専門家たちに、ここで心より感謝の意を表したいと思います。Paula Karbowniczek、Tomasz Dietrich、Anthony Breslin、Pablo Baz、Rajmund Krakowski、Krzysztof Kowal、Maksymilian Lubiński、本当にすばらしい人たちばかりでした!
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マチェイ・タタリノヴィッチ |
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