「ビデオゲームの音楽」とは?「インタラクティブミュージック」とは?単刀直入な質問のようですが、答えるのは決して容易ではありません。オリビエ・ドリヴィエール氏が、今のゲーム音楽に対する一般的なとらえ方の限界と、実は豊富な芸術的表現の可能性について語ります。ゲーム音楽は、音楽以上であるべきなのです。前回のWwise Interactive Music Symposiumに登壇したオリビエの講演内容を、2回に分けて紹介します。
今回は前編として、ゲーム音楽の意義についての誤解を洗い出し、オリビエがその溝を埋めるべく開発者と関係を築いてきた方法を探ります。後編では、オリビエのスペースシャトルWW15E号(分かる?『Wwise』だよ)で一緒に旅に出ます。お楽しみに!
講演会の冒頭、観客であるコンポーザーたちを前にオリビエは堂々と「誰もゲームのつくり方なんて知らない、だから皆さんだって、どうやってゲーム音楽のつくり方が分かる?」と問いかけます。
さて、ゲーム音楽とは?それはコンポーザーにとっては作曲をする行為であり、ゲーム開発者にとってはWAVファイルである、とオリビエは指摘します。開発者はコンポーザーをチームメンバーではなく、WAVファイルと見ることがあり、それを突き詰めていくとコンポーザーと開発者の典型的な関係性が見えてきます。
開発者は、ゲームを作成するクライアントのための業務委託先としてコンポーザーを雇うので、この関係性ゆえに誤解が生まれてしまい、音楽の潜在的な力が発揮されません。これは取り引きとして効率的であっても、コンポーザーはチーム全体から取り残されてしまう恐れがあり、チームのクリエイティブ能力やゲームの可能性をコンポーザーが逃してしまう、とオリビエは指摘します。
また、特にゲーム用にインタラクティブミュージックをつくるときに直面する制約に関しては、それこそ想像性を育んでくれる条件だと強調します。実は制約が創造力への恵みとなり、新しいことを新たな方法で試そうと後押ししてくれるのだと言います。
コンポーザーは、開発者との関係をどのように解決すればよいのか?
- コンポーザーと開発者の関係
- プロジェクトに対する一般的なアプローチの仕方
- わざわざ、なんで?
コンポーザーと開発者の関係
コンポーザーも開発者もゲームで何かを達成したいと思っているので、音楽的なスペクトルを通してゲームのビジョンを一緒に描けるはずです。音楽は、ゲームの多々ある構成要素の1つではなく、エクスペリエンス全体の根本的な部分なのです。コンポーザーと開発者は、ビジョンを共有する必要があります。オリビエは、コンポーザーとして自分のビジョンを売り込んだことの大切さと、音楽がエクスペリエンスを深めてくれる様子を説明します。双方の努力が不可欠で、お互いに意見交換をしてビジョンをそろえる必要があると言います。
チームとしてゲームプレイに向けて団結するには、ゲームオーディオは1つのモノではない、と理解することが重要です。サウンドエフェクトや音楽やナレーションというような個々の部品ではなく、オーディオ全体がまとまって動くことで生きていくるのです。これらは独立したレイヤではなく、すべて音の「旅路」の一部です。開発者は、音楽を使ってゲームプレイという冒険を深めようと考え出すと可能性が広がることを理解し始めると、ものすごく喜ぶ、とオリビエは経験を語ります。
一般的なアプローチ
オリビエは、ゲーム音楽にチームとして取り組むときのアプローチとして、次の分野について話します。
- 「ワールド」、「ストーリー」とは?
- テーマとなる音楽はあるのか?
- カットシーンはあるのか?
- 事前にレンダリングするのか?
- ゲームに筋書きはあるのか?
コンポーザーは「委託業者」として、よく最初の3点に重きを置きたがるとオリビエは説明します。開発者と一緒に、そのゲーム本来の姿のための楽曲を制作したければ、核心に迫らなければなりません。そしてゲームの核心とは、ゲームプレイです。ゲームプレイが、音楽を決めるべきです。これを、どうやって開発者と一緒に行えばいいのでしょう?
ワールドやストーリーを掘り下げていくときに、ゲームプレイに関する質問も入れるようにします。ペースの取り方や制約条件を詳しく知ることで、作曲の内容が大きく変わってきます。また、エクスペリエンスの核心に迫るもう一つの方法は、系統だった音楽を念頭にテーマとなる音楽を作曲することです。
ビデオゲームの中身は系統だっていて、その仕組みがゲームプレイのループで繰り返されるのだとオリビエは説明します。コンポーザーは、このようなゲームの規則性を理解することで、ゲームの流れの中で様々なテーマ性のある音楽を適用する力を持てます。
ゲーム音楽を音楽以上のものにできる最後の例としてオリビエが挙げるのが、カットシーンに深く入り込み、ゲーム中のエクスペリエンスとの関係を把握するということです。カットシーンとゲームプレイは絶対に切り分けて考えない、と説明します。一連の流れがユーザーにとって力強いものになるからです。あるカットシーンで始まった音楽をゲーム中のシーンに続けて流すこともあれば、その逆もあります。コンポーザーがストーリーを知ることで、音楽のつくり方が変わります。
わざわざ、なんで?
オリビエが常に求めているのは、意義のあるエクスペリエンスです。専門家としてゲーム音楽をつくる素晴らしさと自由さを語ります。芸術的なビジョンの延長として、自分自身を音楽に注ぎ込める創造面の自由。テクノロジーを使って自分の芸術を向上する機会がコンポーザーに与えられるなか、技術と創造力は密接な関係にあります。意味あるエクスペリエンスをこれからもつくり出せるように、テクノロジーを受け入れて共に成長すべきだ、とオリビエは激励します。これが結局はプレイヤーのエクスペリエンスの向上につながり、それこそ、最も意義のあることです。
コンポーザーが、開発者との関係を深め、また開発者に理解してもらいたいと考えたときに、彼らのことを理解していくことが大事です。信頼関係を築くことで生まれる関係です。開発者と密接に協力しながら、単なる音楽にとどまらないゲーム音楽をつくり出すことを、オリビエはコンポーザーたちに勧めています。
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