みなさん、こんにちは。
私の名前はヤンです。Studio Windsockeでサウンドデザイナーをしています。私たちのはじめてのゲーム、『Passing By - A Tailwind Journey』についての知見をみなさんと共有できることを大変嬉しく思います。
この小規模なプロトタイプはもともと学生プロジェクトとしてはじまり、最終的には当スタジオのデビュー作として2024年3月にリリースされました。当初、私にはサウンドデザインの経験は全くありませんでしたが、インタラクティブオーディオの世界に踏み出すための第一歩としてWwiseは最適でした。私は最初から、没入感あふれる統一された音響空間を作成し、それによってゲームの魅力とストーリー性を支えることを目指していました。
本ブログ記事では、この課題にどのように取り組んだか、ゲームのオーディオアイデンティティを形づくる上でWwiseをどのように活用したか、そしてその過程で何を学んだのかを取り上げます。
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雲の上の鮮やかな世界
Passing By - A Tailwind Journeyは、浮遊島と果てしない空が広がる鮮やかな世界を舞台にした、幻想的で情緒あふれるアドベンチャーゲームです。プレイヤーは若い気球師であるカーリーとして、謎めいた手紙を配達するという任務に挑みます。旅の道中、気球船を操縦しながらさまざまなバイオームを通過し、難解なパズルを解き、生き延びるためのリソースを管理します。このゲームでは2Dパズルプラットフォーマー、サバイバル、アドベンチャーを融合し、ユニークな没入型エクスペリエンスを生み出します。
探索しながら風変わりな島の住民や仲間の旅人に出会うことで、旅は深みと魅力を増してゆきます。そして美しいローポリの2Dアートスタイルと、趣のあるダイナミックなサウンドトラックが魅惑的な体験をさらに引き立てます。気球船をカスタマイズしたり、古代の秘密を解き明かしたり、Passing By - A Tailwind Journeyのあらゆる瞬間がプレイヤーを引き付け、記憶に残るよう設計されています。
大学のプロジェクトから製品化されたゲームへ
Passing Byは、バイロイト大学で学生プロジェクトとしてはじまりました。私たちのチームは2020年9月にitch.ioで初期プロトタイプをリリースし、その時点では学術プロジェクトとして完成したものととらえていました。嬉しいことにゲームは非常に好意的なフィードバックを受け、おかげで私たちはさらに手を加えることにし、その後いくつかの小規模なアップデートまでリリースしました。

プロトタイプ版
さらに2021年にはドイツの主要な新人賞を2つ受賞するという、思いがけない評価を受けました。これらの受賞に加えてコミュニティからも前向きな反応があったため、ゲームに対する私たちの情熱は再燃し、さらに開発を進めようという意欲がわき上がりました。

転機が訪れたのはgamescom 2022で、後に私たちのパブリッシャーとなるDear Villagersとこの時に出会いました。このパートナーシップにより、私たちの大学プロジェクトは本格的な商業用ベンチャーへと発展しました。新たなエネルギーをもとに、私たちは完璧なゲームに仕上げることに専念し、2024年3月の正式リリースに向けて準備を進めました。
プロトタイプからタイトルの製品化にいたるまでの道のりは、数々の課題や予期しないできごと、そして新たなことを学ぶ機会に満ちていました。これはスタジオのデビューだけでなく、私自身にとってもサウンドデザインの世界への本格的な第一歩となりました。
Wwiseの採用と立ち上げ
多くの学生チームと同様に私たちはすべての領域に精通していたわけではなく、サウンドデザインもその1つでした。Wwiseの採用を決めたのは、当時ルームメイトでもあった作曲担当のミチの提案がきっかけでした。友人からWwiseはインタラクティブミュージックに優れていると勧められ、ミチもダイナミックなゲームサウンドトラックの作曲に意欲的だったため迷いはありませんでした。
ミチと一緒に住んでいたためシームレスに共同作業を行うことができ、私は新しいソフトウェアとクリエイティブ領域に足を踏み入れることに意欲的でした。こうして私はゲームのサウンドデザインを担当するようになりました。
まずはじめにWwise技能検定コースに取り組み、特に『基本的なアプローチ』と『Unityインテグレーション』の各モジュールに重点を置きました。最初にカーリーの足音、風の環境音、いくつかのインタラクション音など小規模なものから取りかかりました。外部のサウンドエンジンで作業したため、インテグレーション上の課題が多少あったものの、Wwiseの使いやすさははじめから実感できました。
オーディオワークフローの構築
Wwiseで初期的な試行を行った後、プロジェクト用のオーディオアセットリストを作成してチームと共有しました。メンバー全員に各レベルで必要なサウンドのアイデアを自由に出してもらいました。このリストは時間が経つにつれて重要な制作ツールとなり、ゲームの開発に合わせて何度も改訂されました。

またリストでは、サウンド名と対応するWwiseイベントを区別して記載しました。これは明確さを保つためで、特にサウンドが複数のイベントで再利用される場合に役立ちました。さらに専用のコメント欄を設けることで、より複雑なサウンド設定を記録して追跡できるようにしました。私はチームで唯一のサウンドデザイナーだったため、このオーディオアセットリストは当初コミュニケーション手段として活用されましたが、すぐに作業用ドキュメントとして機能するようになりました。これによりサウンドデザイン全体の流れを明確に把握でき、開発を通して自分の進捗を効率的に追跡することができました。
スタジオなしでも作業を遂行
録音機材やスタジオを利用できなかったため、freesound.orgなどのオンラインリソースを活用し、CC0(パブリックドメイン)サウンドのみを使用しました。これらのリソースを用いて、当初はAudacityで作業し、ゲームのビジョンに合わせてサウンドの編集や調整を行っていました。その一方で、Wwiseでもサウンドの編集やエフェクトの適用が可能なため、非常に助かりました。これにより、多くの場合で外部ツールを経由する余分な手順を省くことができ、エンジンへのサウンド統合もよりシームレスになりました。
プロジェクトが進むにつれ、私のサウンドデザイナーとしてのスキルは向上し、自信もつきました。最初の頃はできる限り自分のニーズに合ったサウンドを探し、できればピッチシフトなどの軽微な調整だけで済むものを求めていました。その後、望ましい効果を得るために異なるサウンドを重ねたり、組み合わせたりすることに慣れていきました。そういう意味でPassing By - A Tailwind Journeyは、スタジオの初リリースとなっただけでなく、私自身もこのゲームを通してサウンドデザインを習得することができました。
このプロセス全体において特に役立った習慣が、困難または未解決のサウンドの課題をオーディオアセットリストにフラグ付けしておくことでした。それによって後から改めて取り組めるため、多くの場合は新しいアイデアやスキルの向上を活かし、最終的には適切な解決策を見つけることができました。
浮遊する世界向けにSoundBankを最適化
学術的な背景から最適化に重点を置いていたため、プログラマーのマリウスと早い段階で連携し、効率的なSoundBankシステムの構築に取りかかりました。時が経つにつれて多少は進化したものの、基本的な構造はゲームの世界の地理に沿っていました。
Passing By - A Tailwind Journeyは浮遊島を舞台とし、それらはPolar(極地)、Mountains(山岳)、Meadows(草原)、Beach(ビーチ)、Volcanic(火山)の5つのバイオームにグループ分けされています。各バイオームに専用のSoundBankを割り当て、その地域内の小さな島々で共有するすべてのオーディオアセットを入れました。例えばBeachバイオームはカモメや海の波といった環境音を特徴とし、Volcanicバイオームには溶岩の泡立ちや遠くの噴火が含まれます。一方、Meadowsバイオームは鳥のさえずりやミツバチのかすかな羽音など、穏やかな草原で聞こえる自然音を特徴とします。これらに加えて大きなストーリー島にも専用のSoundBankを割り当て、固有のサウンドスケープやインタラクティブ要素に対応しました。さらにGeneral SoundsのSoundBankも作成し、UIサウンド、足音、気球船のオーディオなど常時ロードしておく必要のあるアセットを入れました。
ランタイムに常にロードされているのは、General SoundsのSoundBankのみです。バイオーム専用のSoundBankは、プレイヤーがそのバイオーム内の島に着陸した時に動的にロードされ、離陸後にアンロードされます。プレイヤーがストーリー島に着陸した場合は、その島専用のSoundBankが並行してロードされます。

複数のバイオームに登場する滝など、サウンドの複製が必要な場合もありましたが、重複は最小限に抑えました。また最終的なセットアップには、インタラクティブサウンドトラック用とイントラダイエジェティックミュージック(劇中音楽)用の2つの個別のバンクも含めました。
このモジュール化されたアプローチのおかげで、オーディオの豊かさを損なうことなくメモリを効率的に管理できました。これはNintendo Switchなどのプラットフォーム向けにゲームを最適化する場合に特に重要になります。この構造を早い段階で設計しておいたことが、長期的に大きな成果につながりました。
考察と教訓
思い返してみると、Passing By - A Tailwind Journeyへの取り組みは、私にとってサウンドデザインへのはじめての本格的な挑戦となっただけでなく、大きく成長できた経験でもありました。Wwiseで足音を試行錯誤していた初期の頃から、複数のバイオームにわたり環境音全体を作り上げるようになるまでの間に、私は徐々に自分らしいクリエイティブな表現を見い出していきました。その過程で何度も不確かな状況を乗り越え、実用的な解決策を見つけ、そして実践、失敗、反復を通して学ぶ必要がありました。
Wwiseのモジュール性と柔軟性のおかげでプロジェクトと共に成長することができ、スキルの向上に合わせてより複雑なサウンドバリエーション、エフェクト、ゲームシンクを追加できるようになりました。この経験から高価な機材やプロ仕様のFoleyスタジオを備え、本格的なトレーニングを受けたサウンドデザイナーである必要はないのだと実感しました。Wwiseのようなツールを活用することで、コンピュータと学ぶ意欲さえあれば、洗練されたオーディオエクスペリエンスを生み出すことができます。
さらに重要なことに、優れたサウンドデザインに必要なのはツールだけではなく、丁寧に耳を傾け、反復作業を行い、シーンやインタラクションで本当に求められているのは何かを見極めることだと気づかされました。大切なのは物語をサウンドで語ることなのです。
このブログ記事を通して、このゲームのオーディオの舞台裏について少しでもご理解いただけたのであれば幸いです。インタラクティブオーディオをはじめたばかりの方や、はじめてのプロジェクトに取り組んでいる方は、小さなことからスタートすることを恐れないでください。適切なツールと好奇心さえあれば驚くほどの成果を生み出せます。
お読みいただきありがとうございました。ぜひ創作を楽しんでください。

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