『ウェイワード ストランド』のボイスオーバーのパイプライン パート3

ゲームオーディオ

『ウェイワード ストランド』のボイスオーバー作業についての連載の最終回です。第1回はこちら、第2回はこちらをご覧ください。

WAVファイルをWwiseで再生:

Wwiseは外部オーディオファイル再生の実装がすばらしいため、とても分かりやすくWAVファイルを再生することができ、UnityのWwiseプラグインの使い方を1度確認してしまえば、どのシーンのどの台詞でも大丈夫でした。最も苦労したのはサブフォルダに入れるWAVの整理の方法でした。

最終的にフォルダ構成は<日にち>/<シーン名>/<ファイル(ファイル名は01.wav~999.wav)>としました。こうすることで特定のシーンの特定のWAVのパスを知りたい時は、そのシーンが何日目に出てくるのか、シーン名、またその台詞のレコーディングに私たちが振った特別な番号を調べておけばよいのです。工夫を要したのはキャラクターたちのshared(共有)シーン専用のフォルダ構成で、少し変える必要がありました。フォルダ構成をshared/<キャラクター>/<シーン名>/<01.wav~999.wav>としました。sharedフォルダ内のシーンはこの構成を使い、それ以外は一般的な日にち構成を使いました。

前述の特別番号とはシーン内の台詞の各行に連番で振ったインデックス番号ですが、台本の印刷やレコーディングセッションをはじめる前に付けた固定番号であり、レコーディング後にシーンを編集・構成変更した場合、シーンが変わってもインデックス番号は変えませんでした。レコーディング後の編集は想像以上に頻繁に行いました。例えばシーンにボイスオーバー(VO)を重ねてQAテストをした時にはじめて判明する論理上の問題や、朗読の仕方がどうしてもしっくりこないため、全体の流れを変えずに部分的にカットしたシーンや、異なる複数のシーンから台詞を抜粋して新しくつくった巧妙な追加シーンなどです。固定番号は驚くほど便利であることが分かり、VO収録済後からリリース直前までバグの修正やシーンの改善などを続けました。

バグ:

VOではどんなバグがあると思いますか?

台詞の間違い、テイクの間違い

これを訂正するためには該当するノーテーション(記録)シートを開き、そのPro Toolsファイルを開いて、目あての台詞を探し出します。Pro ToolsやRXプリセットなどを通して再編集する必要があります。そもそも記録が誤っていて表記の台詞が存在しないこともありました。レコーディング中に集中することが多すぎて、見落とすことだってあります。

台詞が正しくスライスされていないため、シーンが同期しない

あれれ!?ダイアログの台詞1行が正しくスライスされていないため、それ以降の台詞に間違った番号が振られてしまい、登場人物の口から話し相手の台詞が出てくることもありました。対策としてJasonがすべてのシーンをスクレイピングするツールをつくってくれたため、フォルダ内のWAV数が予想以上または予想以下でないかを確認することができました。おかげでかなり体系的に調べながら、修正していくことができました。ところがスライスの間違いがもう1つあると、シーン終了前に番号が揃ってしまうこともあり、その場合は自動化されたツールではなく手作業のQAで問題のシーンを探す必要がありました。

対応手順として最初にノーテーションシートを開いて中を確認します。このシートこそ「source of truth(真実の情報源)」だからです。ところで次に必ずPro Toolsを開くとは限りません。台詞がすべて収録されていて、それが違うクリップに入っているだけであれば、私は徐々にPro Toolsを使わず、スライスや結合をAudacityで行うようになりました。

単語が見あたらない

デンマーク語を話さない人が毎分100行の台詞をスライスしていると、スライスの間違いが発生しやすくなります。キャラクターが咳をしたり、でたらめな言葉を言ったり、何らかの無意味な音を出したりした時、それが台詞と勘違いされることもあります。そうすると私はPro Toolsに戻り、足りない単語がどこに消えたのかを探します。ある言葉が最初から収録から漏れていた場合は、その言葉のインスタンスがほかに出てこないかを台本で探すか、ゲームのInkファイルまたは台本ファイルを開いて台詞そのものを変えます。

VOのバグの修正に私が使ったツール:

  • ノーテーションのスプレッドシート
  • Pro Toolsセッション
  • 単純な内容であればAudacity
  • 台本の修正であればInk

バグはそれほどありませんでした!実際のところ編集プロセスで最も多くの過ちを犯したのは、Maize、この私でした!誰にでも得手不得手があるものです…。バグのあったシーンが全体の何パーセントとなるのかを示す統計データがありました。シーンは合計数100個もあり、何らかの小さな修正が必要であったのは恐らく5%ほどだったと思います。幸い実装の時間が予算に含まれており、結局その半分が自動化されたため、私は頭を切り替えて予想外のバグに集中することができました。

最後に

最後の処理はシーン演出でした。Jason、Aspen Forster、Susan Dang、そしてMarigold Barletがシーンの演出に使用したのは、Unityのタイムライン機能と、JasonがRussell DilleyやThomas Ingramの力を借りて作成した完全カスタムメードのツール群でした。ここでもVOバグが見つかることがあり、私が修正しました。やり残していたオーディオキューを短時間で作成して実装したのもこの時でした。

最終的にVOをレコーディングしてゲームに入れ込むことは、大掛かりな共同作業となりました。実に映画18本分相当であることを自分に言い聞かせています。それは膨大な量でした!

メイズ・ワーリン

メイズ・ワーリン

メルボルン大学Victorian College of the Artsで美術学士(BFA)を取得。メルボルンを拠点にインディーゲームやAAAの大規模ゲームでコンポーザ、サウンドデザイナー、オーディオプログラマーとして活躍中です。3D空間音響や動的な音楽を得意とし、最先端の技術を使いこなして個性的な結果を生み出しています。これらのトピックについてオーストラリア内外で講演やコンサルティングを行うほか、積極的にゲームデベロッパのコミュニティに参加し、コミュニティ内のアクティビズムや多様性の向上に貢献しています。『God Fall』、『Receiver 2』、『ウェイワード ストランド』、『Cosmic Express』など幅広いジャンルの経験を有し、個人として実験的オーディオゲームなどを発表しています。

maizewallin.com

 @MaizeWallin

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